有識者会議「一旦停止」でも見直しは消えない――令和9年度税制改正大綱を3つのシナリオで読む(特例承継税制の期限まで残り14か月) | 大阪・名古屋・東京の事業承継専門家|株式会社NEX Consulting(ネックスコンサルティング)

Column

税制解説公認会計士コラム / 税務解説事業再生資産承継

有識者会議「一旦停止」でも見直しは消えない――令和9年度税制改正大綱を3つのシナリオで読む(特例承継税制の期限まで残り14か月)

2026年11月4日、片山財務相は非上場株式の評価見直しについて、国税庁の有識者会議の議論を「一旦停止」し、与党税制調査会で白地から議論すると表明しました。これを「見直しは中止になった」と受け止める声がありますが、それは誤解です。財務相自身が「一定の対応は必要」と述べ、令和9年度改正では事業承継税制の見直しも予定されています。本稿では、2026年11月時点の公表情報から、年末の大綱がどう着地するかを3つのシナリオで予測し、立場別に評価します。

目次

有識者会議の「停止」で、何が白紙になり何が残ったのか?

現行の非上場株式の評価は、財産評価基本通達(国税庁が定める評価ルール)により会社を大・中・小に区分し、大会社は類似業種比準方式(上場類似企業の株価と比べる方式)、小会社は純資産価額方式、中会社はその併用で行います。少数株主には配当還元方式が適用されます。

国税庁は2026年4月から有識者会議を開き、9月16日の第6回までに、規模区分を廃止して「残余利益方式」(簿価純資産(帳簿上の純資産)に5年分の超過収益の現在価値を加減する方式)に一本化する案を示していました。11月4日に白紙になったのは「国税庁案を前提とすること」であり、「見直しの必要性」ではありません。評価方法は法律ではなく通達で定められているため、大綱で方向性が示されれば、国税庁が通達改正で対応する経路は残っています。

項目現行国税庁案(第6回まで)大綱の予想着地(筆者)
原則的評価規模別に類似・併用・純資産残余利益方式に一本化一本化は見送り、検討継続
資産管理会社等株特・土地特は純資産方式特定資産70%以上等で純資産方式個別論点として検討に残る
配当還元方式同族株主以外等、還元率10%3%未満の少数株主に限定範囲・還元率は検討対象
特例事業承継税制計画2027年9月末、実行同年12月末評価とあわせて検討期限後の在り方を提示

なぜ見直しが必要とされたのか――制度の「功」は消えたのか?

出発点は、会計検査院が2024年11月6日に公表した令和5年度決算検査報告です。検査院は、規模区分が大きいほど評価額が相対的に低く算定される傾向と、配当還元方式の還元率10%による評価額が昭和39年の通達制定当時に比べ相対的に低くなっているおそれを指摘し、評価制度の在り方の検討を求めました。

国税庁は、この規模間の不公平に加え、会社規模や資産構成を意図的に変えて評価額を圧縮するスキームを問題視してきました。現在は評価通達6項(通達どおりの評価が著しく不適当な場合に別の方法で評価する定め)による個別の否認に頼る場面があり、予測可能性に欠けます。通達自体を改める方向には、政治の反発とは別次元の合理性があります。

国税庁も第4回会議で、見直しは増税目的ではないと説明しています。

誰の負担がどれだけ変わるのか?

第6回会議では、還元率8%、しんしゃく率0.7、加算期間5年などの仮定を置いた試算が公表されました。

区分(試算対象)現行評価額に対する増減(中央値)評価額が現行以下となる割合
大会社(128社)+50.3%28.1%
小会社(430社)▲31.6%78.4%
全体(1,378社)―評価額が増加する会社は42.7%(報道)

これらは仮定に基づく会社規模別の中央値等であり、個別企業への影響を示すものではありません。しんしゃく率や還元率は未確定です。

読み取れるのは「全員が増税」ではなく「二極化」です。評価額が上がりやすいのは、規模が大きく、収益力が高く、内部留保を厚く積み上げてきた会社であり、政治や経済団体の反発もこの層に集中しました。抜本改正が先送りされた場合、最も時間的な猶予を得るのは「上がる側」の会社です。その猶予の使い方で、将来の承継コストは大きく変わります。

様子見でよいのか――実務上の落とし穴は何か?

  1. 「停止=中止」と考えて対策を止めること。財務相は「一定の対応は必要」と明言しています。会計検査院の指摘は残っており、新たな検討の場で見直しが再浮上する可能性は十分にあります。
  2. 特例事業承継税制の「2つの期限」。特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、贈与・相続の適用期限は2027年12月31日です。令和8年度大綱は令和9年度改正での見直しを予定していますが、延長や恒久化は未確定であり、延長を前提に待つのは危険です。
  3. 個別スキームは「部分改正」で狙われやすいこと。組織再編直後の会社の扱い、現物出資等で受け入れた資産に係る法人税等相当額の扱い、開業後年数基準(3年未満から5年未満とする案)など、国税庁が挙げた論点は単独で手当てしやすいものです。
  4. 配当還元方式と従業員持株会。国税庁案は配当還元方式を保有割合3%未満の株主に限り、親族の範囲も見直す方向でした。少数株主への分散や持株会を前提にした資本政策は、前提が崩れる可能性があります。
  5. 駆け込み承継の副作用。駆け込みの事業承継が増えているとの報道もあります。急いだ贈与は遺留分(相続人に保障された最低限の取り分)の問題を生むこともあり、設計の検証が必要です。

御社が新方式で「上がる側」か、特例承継計画が期限に間に合うかは、直近の決算書と申告書で概算できます。30分の無料相談で、大綱を待たずに打てる手を整理します。

政治家・官庁・経済団体は何と言っているのか?

時期発言者・主体発言・決定の内容
2026年9月16日中小企業庁約175万社への影響検証や成長投資との整合性を求め、慎重な検討を求める意見を公表
2026年9月18日日本商工会議所多くの中小企業の株式評価が大幅に上昇する可能性を指摘し、見直し案に反対
2026年10月6日片山財務相事業承継税制と合わせて検討(報道)
2026年10月6日自民党税制調査会(小野寺会長)評価見直しを重要課題に位置付け(報道)
2026年10月7日高市首相衆院本会議で「ゼロベースで検討を進める」と答弁
2026年10月22日岸田元首相成長を目指したこれまでの議論と逆の方向だと苦言
2026年10月29日自民党日本成長戦略本部国税庁案を容認できないとし、白地からの議論と新たな場の設置を求める緊急決議
2026年11月4日片山財務相有識者会議を一旦停止し党税調で白地から議論。一定の対応は必要

一連の発言は「中止」ではなく「仕切り直し」を示しています。財務相は「白地」と述べる一方で「一定の対応は必要」「事業承継税制と合わせて検討」とも述べ、党税調は評価見直しを重要課題に位置付けています。成長戦略本部の決議も、見直しの撤回ではなく、多様な関係者が参加する新たな場での議論を求めています。否定されたのは国税庁案の「中身と進め方」であり、議題そのものは与党税調へ移ったと読むべきです。

令和9年度大綱はどう着地するのか――視点別に評価するとどうなるか?

3つのシナリオ

シナリオAは「完全先送り」で、引き続き検討する旨の記載にとどまる着地です。シナリオBは「抜本見直しは先送りしつつ、新たな場での検討継続と、特例事業承継税制の後継制度、限定的な手当てを示す」着地です。シナリオCは「残余利益方式を土台にした抜本改正と事業承継税制の拡充をパッケージで決める」着地です。

11月4日の表明により、年末までにCを具体化することは日程上困難です。一方、会計検査院の指摘と財務相の「一定の対応」発言から、何も示さないAも考えにくいと私たちは見ています。最も可能性が高いのはBです。ただし、部分的な見直しをどこまで書き込むかは12月の与党税調の議論次第で、現時点では未確定です。下表はシナリオBの評価です。

視点評価理由
課税の公平性△規模間の不公平は温存され、手当ては個別論点に限られる
事業承継の円滑化○後継制度が示されれば承継計画を立てやすい
成長投資との整合○収益力・内部留保への評価強化を回避できる
納税者の予測可能性△再見直しの可能性が残り、6項への依存も続く
執行の簡便性○現行の計算体系を維持できる

シナリオBは、成長投資と円滑な事業承継という政策目的と政治的な合意を優先し、規模間の公平性と制度の予測可能性を犠牲にする着地です。先送りは問題の解消ではなく、次の改正サイクルへの持ち越しです。

反対意見・別の考え方――それでも「今動くべき」と言えるのか?

私たちの見立てには二方向の反対があり得ます。一つは公平性を重視する立場からの「会計検査院の指摘を政治的反発で棚上げするのは筋が違う。国税庁案を修正して早期に実施すべきだ」という意見です。もう一つは経済団体を中心とする「抜本変更そのものが不要であり、まず事業承継税制の特例措置を恒久化すべきだ」という意見で、日本商工会議所は以前から恒久化を求めています。実務家の一部には、急ぐ必要はないとの見方もあります。

それでも私たちは「抜本改正は先送りの公算が大きいが、オーナーは今動くべきだ」という立場を取ります。第1に、期限が確定しているのは事業承継税制の側です。2027年9月30日と同年12月31日の期限は評価見直しの行方にかかわらず迫っており、計画作成と後継者との合意形成には時間がかかります。第2に、見直しの議題は場を移して続きます。再浮上したとき、「上がる側」の会社ほど対策の選択肢が狭まっている可能性があります。第3に、部分的な見直しは短い準備期間で実施されやすく、特定のスキームに依存した対策ほど影響を受けます。先送りで得た時間は、双方の方式で株価を試算し、スキームに依存しない承継の形を固めるために使うべきです。

まとめ

  • 11月4日の「一旦停止」は国税庁案の白紙化であり、見直しの中止ではありません。議題は与党税調と新たな検討の場に移ります。
  • 令和9年度大綱は、抜本見直しを先送りしつつ事業承継税制の後継制度と限定的な手当てを示すシナリオが最も有力と私たちは予測します(2026年11月時点)。
  • 第6回試算では大会社の中央値が+50.3%、小会社の78.4%が現行以下と影響は二極化しています。自社がどちら側かを把握すべきです。
  • 特例承継計画の提出期限(2027年9月30日)から逆算し、大綱公表を待たずに株価試算と承継方針の確認に着手すべきです。

本稿は、令和9年度税制改正大綱における非上場株式の評価見直しと事業承継税制の行方に関する2026年11月時点の一般的な解説であり、制度の内容・試算・適用時期は今後の議論により変わる可能性があります。シナリオは筆者の予測であり確定した内容ではなく、個別の案件における判断・結果を保証するものではありません。実際の案件では、個別の事情を踏まえ、専門家への確認を行ってください。

関連資料:令和8年度税制改正と評価ルール改正の要点を整理した資料で、年末の令和9年度大綱を読み解く前提を確認できます。

無料相談はこちら
06-4706-3113 電話で無料相談 受付時間 9:00~21:00 │年中無休
メールでのご相談はこちら