国税庁の有識者会議は、2026年9月16日の第6回会議で、非上場株式を「残余利益方式」で評価する具体的な計算方法と、約1,400社の試算結果を示しました。「評価方法が変わるのはまだ先の話」「どの会社も一律に株価が上がる」と考えがちですが、実際には会社の規模と収益力によって結果がはっきり分かれます。
第6回会議の試算で、どの会社の株価が上がるのか?
残余利益方式とは、決算書上の純資産(簿価純資産)に、株主が通常期待する水準を上回って稼ぐ力(残余利益)を5年分上乗せして株価を求める方法です。第6回会議では、計算の基礎を法人税申告書とし、課税時期前5年間の正常利益(臨時的な損益を除いた利益)を用いる案が示されました。
国税庁は、相続税・贈与税の申告から抽出した1,378社について、還元率(株主が期待する利回り)を8%と仮定して試算しています。最終的に評価額を割り引く「しんしゃく率」ごとに、現行評価額と比べた増減(中央値)は次のとおりです。
| 会社規模 | しんしゃく率0.7 | 0.8 | 0.9 | 1.0 |
|---|---|---|---|---|
| 大会社 | +50.3% | +71.7% | +93.2% | +114.7% |
| 中会社 | ▲1.9% | +12.1% | +26.1% | +40.2% |
| 小会社 | ▲31.6% | ▲21.8% | ▲12.0% | ▲1.9% |
| 全体 | ▲10.4% | +2.3% | +15.2% | +28.1% |
大会社はどの前提でも5割以上の上昇、小会社はどの前提でも下落です。現行の類似業種比準方式(上場している同業種企業の株価と比べて評価する方法)で評価額が低く抑えられてきた大会社ほど、新方式の影響を強く受けます。
ただし、これは中央値です。現行より評価額が下がる会社の割合は、小会社でしんしゃく率0.8なら67.9%、0.7なら78.4%ですが、大会社でも0.8で24.2%、0.7で28.1%あります。同じ規模区分でも、利益水準や内部留保の厚さによって結果は逆になりえます。規模区分だけで「うちは上がる」「うちは下がる」と判断するのは早計です。
「制度が確定してから動けばよい」と考えるとどうなるか?
仮に、現行の評価額が3億円の大会社株式が、しんしゃく率0.8の中央値どおり71.7%上がると、評価額は約5.15億円になります。最高税率55%が適用される規模の相続であれば、税負担は概算で1億円以上増える計算です。これは試算の中央値を当てはめた概念上の計算ですが、増え方の大きさは押さえておくべきです。
時間の制約もあります。事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、贈与・相続の実行期限が2027年12月31日です。新方式の適用時期はまだ決まっていませんが、税制改正の手続きを経て決まるため、確定を待ってから検討を始めると、特例措置の期限に間に合わないおそれがあります。
さらに、従来の株価対策も効きにくくなります。オペレーティングリース(航空機等の賃貸事業への出資)による利益の圧縮は「なかったもの」として計算し直され、完全子会社の株式は簿価ではなく適正な価額に修正される案です。組織再編の直後の会社は純資産価額で評価されます。株価対策だけを目的とした持株会社化は、今から新たに始めるべきではありません。
御社の株式が残余利益方式で上がる側か下がる側か、特例措置の期限内に動くべきかは、30分の無料相談で直近の申告書をもとに個別に整理できます。
「下がる会社もある」「見直し自体が後退する」という見方は?
小会社の多くは評価額が下がる試算であり、むしろ待つ方が有利だという見方があります。また、日本商工会議所や経済産業省・中小企業庁は、事業承継や成長投資を妨げるおそれがあるとして慎重な検討を求めており、案がそのまま実現するとは限りません。
私もこの指摘には理があると考えます。収益力が低い小会社であれば、承継を急ぐ必要はありません。しかし、評価水準を左右するしんしゃく率と還元率は第7回以降の論点で、まだ決まっていません。試算では、しんしゃく率を0.7まで下げても大会社は5割以上上がっています。大会社や高収益の会社が「現行の評価水準が続く」前提で計画を立てるのは危険です。純資産価額を評価額の上限とする現行の取扱い(頭打ち)を残すかどうかも検討中であり、収益力の高い会社ほどその結論に左右されます。
大切なのは、自社がどちら側にいるのかを自社の数字で確かめることです。大会社区分の会社や、純資産に比べて利益水準が高い会社は、現行制度での承継を前倒しで検討すべきです。低収益の小会社は、試算の結果を見てから判断すれば足ります。
まとめ
第6回会議で、残余利益方式の計算方法と試算結果が具体的に示されました。評価水準はまだ決まっていませんが、会社によって影響の向きと大きさが大きく異なることは明らかです。
- 大会社・高収益・子会社を持つ会社は、現行制度での承継と特例措置の活用を前倒しで検討すべきです。
- 低収益の小会社は、急がずに試算結果を見てから判断できます。
- まずは法人税申告書をもとに、新方式での自社株の評価額を試算してください。
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本稿は、取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)の資料に基づく一般的な解説であり、記載の評価方法は2026年9月時点の検討案です。個別の案件における判断・結果を保証するものではありません。実際の案件では、個別の事情を踏まえ、専門家への確認を行ってください。
参考・出典
- (※国税庁 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)資料/2026年)https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260916/pdf/06shiryo_kabukaigi.pdf
- (※経済産業省・中小企業庁 「取引相場のない株式の評価」見直しに係る意見/2026年)https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260916/pdf/06obikensyo_kabukaigi.pdf
- (※日本商工会議所 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)意見書/2026年)https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260820/pdf/05ikensyo_kabukaigi.pdf
- (※財務省 令和9年度税制改正要望(経済産業省)取引相場のない株式の評価方式に関する見直し/2026年)https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2027/request/meti/09y_meti_k_04.pdf
- (※国税庁 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 開催状況)https://www.nta.go.jp/about/council/kenkyu.htm