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「夫の会社のこと、私はどこまで知っておくべきですか」――社長の平均年齢60.8歳、言い出せない経営者の妻に伝えたい7つの備え

「夫の会社の株や借入のことは、実はよく知りません。でも、万が一のときに私と子どもがどうなるのかは、ずっと気になっています」。私たちの事務所には、こうした経営者の配偶者からのご相談が確実に増えています。多くの方が抱えているのは「配偶者は1億6,000万円まで相続税がかからないから、私は何もしなくていい」という思い込みです。けれども、経営者の相続で本当に問題になるのは税額ではなく、「売れない株」「引き継がれる保証」「止まる収入」の3つです。本稿では、夫に直接聞きにくい立場の方に向けて、知っておくべき事実と、万が一があっても家族と会社を守れる設計を解説します。

目次

「相談されていない妻」は、少数派ではありません

経営者の高齢化は統計にはっきり表れています。全国の社長の平均年齢は60.8歳と、35年連続で過去最高を更新しました。後継者不在率は50.1%、つまり2社に1社は後継者が決まっていません。 帝国データバンク「全国『社長年齢』分析調査(2025年)」帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」より)

そして「経営者の病気・死亡」を主因とする倒産は2025年に335件と、2000年以降で最多を更新しました。会社の規模が小さいほど、社長の不在がそのまま倒産に直結しやすい構造があります。 帝国データバンク「全国企業倒産集計 2025年報」より)

この数字が意味するのは、「経営者本人が準備できていない会社が半数ある」ということです。本人が準備していないのなら、妻に情報が届いていないのは当然です。夫が話さないのは、多くの場合、隠しているからではなく「まだ先のことだ」「自分でも決めていない」からです。ただし法律上、妻は夫の相続人であり、遺産分割協議の当事者です。「何も知らされていないまま、いきなり当事者になる」――これが問題の本質です。

知らないと損をする7つのポイント

1. 自社株には値段がつくが、売れない

相続税の課税割合(亡くなった方のうち相続税が発生した割合)は10.4%と過去最高ですが、オーナー経営者のご家庭では自社株の評価額が加わるため、申告が必要になる可能性は平均よりかなり高くなります。自社株は評価額がつく一方で、上場株のように市場で換金できません。それでも納税は原則として相続開始から10か月以内の現金一括です。「税金はかかるのに、その財産ではお金が作れない」――これが経営者の相続の第一の特徴です。 国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」相続税法第27条より)

2. 「1億6,000万円まで無税」は、分割が決まってからの話

配偶者の税額軽減は、申告期限までに遺産分割が確定した財産にしか使えません。後継者である子と妻の間で自社株の行き先がまとまらなければ、いったん軽減なしの税額を納めることになります。「分割見込書」を提出して3年以内に分割すれば還付は受けられますが、その間の資金は手元から出ていきます。軽減は自動的に効くものではなく、「話がまとまっている家」だけが使える制度だと理解してください。 相続税法第19条の2より)

3. 夫の連帯保証は、妻に相続される

会社の借入に夫が個人保証をしていれば、その保証債務は法定相続分に応じて相続人に引き継がれます。民間金融機関の新規融資のうち経営者保証に依存しないものは2023年度上期に47%まで増えましたが、裏を返せば残る半数は保証付きです。相続放棄の期限は原則3か月。保証の有無を知らずに過ごすと、「放棄する」という選択肢そのものを失います。 民法第896条・第915条金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」より)

4. 会社と家庭の「境界線」が曖昧なまま残っている

中小企業では、社長個人から会社への貸付金、会社から社長への貸付金、会社名義の自宅や車が混在していることが珍しくありません。社長から会社への貸付金は相続財産として課税される一方、会社が返せなければ回収できません。逆に会社から社長への貸付金は、相続人が返済を求められる債務です。金融機関が経営者保証を外す条件の第一に「法人と経営者の関係の明確な区分・分離」を挙げているのは、この曖昧さが承継の障害になるからです。 経営者保証に関するガイドライン研究会「経営者保証に関するガイドライン」より)

5. 法人契約の生命保険は、会社のお金である

「夫には大きな保険がかかっている」と聞いていても、契約者・受取人が会社であれば、保険金は会社に入り、妻には直接届きません。それを家族に届けるには、株主総会や役員退職金規程に基づいて死亡退職金として支給する手続きが必要です。規程がなければ、支給の是非は残された役員と株主の判断に委ねられます。死亡退職金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がありますが、規程がなければ枠を使う前段階で止まります。 相続税法第12条より)

6. 妻に寄せすぎると、次の相続で跳ね返る

配偶者の税額軽減を最大限使って妻に財産を集めると、妻自身の相続(二次相続)では軽減が使えず、法定相続人も1人減るため、税額が膨らみます。一方、自社株を後継者に集中させる遺言を作れば、妻には遺留分(法定相続分の2分の1)があり、代わりに何を受け取るのかを決めておかなければ争いの種になります。一次・二次を通算し、「株は後継者へ、妻には現金と保険を」という組み合わせを事前に設計することが必要です。 民法第1042条より)

7. 役員報酬は、亡くなった月で止まる

妻の生活費が夫の役員報酬に依存している場合、収入は即座に途絶えます。妻自身が役員として報酬を受けていても、後継者の経営判断で見直される可能性があります。個人契約の生命保険金には死亡退職金と同じ非課税枠があり、「納税資金」と「生活資金」を分けて確保できる数少ない手段です。 相続税法第12条より)

7つのうち、ご自身が「わからない」と感じた項目が1つでもあれば、夫に直接聞く前の段階でも、30分の無料相談で第三者と一緒に状況を整理することができます。

「妻が口を出すと、後継者や社員との関係が壊れる」という声に

経営者の方から「妻が経営に関心を持つと、後継者候補の子どもや幹部社員が萎縮する」「顧問税理士が見ているから妻が知る必要はない」というご意見をいただくことがあります。また、配偶者側からも「疑っていると思われたくない」「お金の話を切り出すこと自体が気まずい」という声を聞きます。いずれも、もっともな面があります。私たちも、配偶者が経営判断に介入すべきだとは考えていません。

それでも私たちは、配偶者は「株・保証・保険・遺言」の4点だけは把握しておくべきだと考えます。理由は単純です。万が一のとき、遺産分割協議書に署名し、保証債務を相続するかを3か月で決め、10か月以内に納税するのは、税理士でも後継者でもなく妻本人だからです。経営に口を出すことと、自分が当事者になる事項を知っておくことは、別の話です。

夫にどう切り出すか――「相続」ではなく「会社の備え」として

実務で効果があるのは、「あなたの相続の話」ではなく「会社に万が一があったときの備えの話」として切り出すことです。具体的には次の3つをおすすめしています。

  • 顧問税理士との年1回の面談に同席を頼む(「決算の説明を一度聞いてみたい」で十分です)
  • 「株主名簿」「借入と保証の一覧」「保険証券」の3つの保管場所を確認する(内容を詮索する必要はありません)
  • 夫婦ではなく第三者を交えて「万が一シート」を作る(誰が株を持ち、誰が保証し、保険金がどこに入るかの1枚)

疑心暗鬼が生まれるのは、情報がないからです。所在だけでも把握できれば、不安の大半は消えます。

まとめ――「万が一があっても大丈夫」な設計とは

  • 株主名簿と、借入・個人保証の一覧を、年に1回は夫婦で確認する
  • 自社株の行き先を公正証書遺言で確定させ、妻の遺留分に見合う現金・保険を別に用意する
  • 役員退職金規程を整備し、法人契約の保険金が家族に届く経路を作る
  • 個人契約の生命保険で、納税資金と生活資金を別建てで確保する
  • 会社と個人の貸し借りを整理し、経営者保証の解除交渉を承継準備と同時に進める

これは夫を疑うための確認ではなく、夫が築いた会社と家族を守るための確認です。そして、これらの設計は夫が元気なうちにしか実行できません。夫に直接聞きにくければ、まず第三者に状況を整理してもらうことから始めてください。

関連資料:自社株・生命保険・遺言をどう組み合わせて家族を守るか、その判断基準を『事業承継(相続対策)の基準』としてまとめています。ご夫婦で確認する際の材料としてご活用ください。

本稿は、経営者の配偶者の立場から見た事業承継・資産承継・相続対策に関する一般的な解説であり、個別の案件における判断・結果を保証するものではありません。実際の案件では、個別の事情を踏まえ、専門家への確認を行ってください。


参考・出典

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