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「株価が下がるから持株会社」という説明は、もう通用しません
持株会社化のご相談で、初回面談に必ず出てくる言葉があります。「持株会社にすると株価が下がるんですよね」。私はこの言葉が出た時点で、いったん設計の議論を止めることにしています。株価対策を目的に組んだ持株会社は、税制が動いた瞬間に存在意義を失うからです。そして今、その税制が実際に動き始めました。
2026年8月20日、評価の土台そのものが俎上に載りました
国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は、2026年8月20日の第5回で見直しの方向性を示しました。柱は明確です。会社規模別の区分を廃止して単一の評価方式とすること、理論的裏付けを欠く類似業種比準方式の存置は困難であること、簿価純資産に数年分の超過収益を加減する残余利益方式を主軸に据えること、そして純資産価額方式を原則的評価から「特定の評価会社」向けの方式へ位置付け直すことです。超過収益の期間については、5年分が妥当ではないかという意見も出ています。
持株会社にとって決定的なのは、租税回避スキームへの対応として並べられた論点です。完全支配関係にあるグループは全体として評価する。会社規模の操作は単一方式化で封じる。役員退職金やオペレーティング・リース等による一時的な損益は除外し、「正常利益」で評価する。この三つは、実務で組まれてきた持株会社スキームの効き目を正面から削ぐ内容です。親会社の資産を子会社へ落として単体の株価を下げる——その手当ては、想定の範囲内として名指しされています。
なぜここまで踏み込まれたのか
発端は会計検査院です。令和5年度決算検査報告は、延べ616社の比較において類似業種比準価額の中央値が11,622円、純資産価額の中央値が42,648円、すなわち27.2%にとどまることを明らかにしました。純資産価額に対する申告評価額の中央値は、大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍。規模が大きい会社ほど安く評価されるという逆進性が、公平性の問題として指摘されたわけです。第5回資料には、株主構成の操作により企業価値の総額から最大で約98%を圧縮した事例まで挙げられています。ここまで書かれた以上、見直しは「あるかどうか」ではなく「いつ、どこまで」の話です。
設計判断の5論点
私が持株会社化の可否を判断するとき、必ず順番に潰していく論点は次の5つです。順番そのものに意味があります。
| 論点 | 誤った問い | 正しい問い | 実務での落とし穴 |
|---|---|---|---|
| ①目的 | 株価はいくら下がるか | 議決権を誰に、いつ集約するか | 少数株主を残したまま器だけ作る |
| ②手法 | どれが一番安いか | 株式移転・会社分割・株式交付・後継者HDのどれが目的に合うか | 手法ありきで目的が後付けになる |
| ③返済原資 | いくら借りられるか | 子会社配当で無理なく返せるか | 受取配当の益金不算入を前提にした過大借入 |
| ④評価 | 今の通達でどう評価されるか | グループ全体・正常利益で評価されても耐えるか | 株式保有特定会社への該当、総則6項の適用 |
| ⑤出口 | 永久に持ち続ける前提 | M&Aや再編で解けるか | HD越しの譲渡で税負担が二重化する |
とりわけ③と⑤が軽視されがちです。持株会社は、子会社からの配当だけで借入を返す構造体です。子会社の業績が2期落ち込めば、返済は止まります。そして出口。将来の売却を検討した際、事業会社株ではなく持株会社株を売ることになり、買い手は不要な資産を抱き合わせで買わされる形になります。私が見てきた「解けない持株会社」の大半は、この2点を検討していませんでした。
反論と、それに対する私の考え
「改正前に駆け込みで実行すべきではないか」という反論があります。合理的な面はあります。特例承継計画は令和9年9月30日までの申請、事業承継は令和9年12月31日までという期限が動かせない以上、時間軸から逆算する判断は必要です。
しかし、駆け込みで組んだ器は、通達改正後に10年、20年と使い続けることになります。改正後の評価に耐えず、事業上の説明もつかない持株会社は、いずれ解散や再々編のコストを生みます。加えて、経済的合理性を欠く再編は同族会社の行為計算否認や財産評価基本通達総則6項の射程に入ります。急ぐべきは「実行」ではなく「意思決定」です。誰に承継させるのかが決まっていない会社が、器だけ先に作っても意味がありません。
結論——持株会社は節税商品ではなく、統治の骨格です
持株会社化が正当化されるのは、次の三つのいずれかを構造として実現するときだけだと考えています。議決権を後継者に集約し分散を防ぐこと、所有と経営を分離して事業ごとに責任者を立てられるようにすること、そしてM&Aや撤退を機動的に行える器を用意することです。株価の圧縮は、これらを設計した結果として生じる副次的な効果にすぎません。副次的効果を主目的に据えた瞬間、その設計は税制の一改正で瓦解します。8月20日の資料は、その現実を突きつけたものだと私は受け止めています。
本稿は一般的な解説であり、特定の取引に対する税務上の助言ではありません。個別の事案については、必ず個別にご相談ください。
参考・出典
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)資料」(2026年8月20日) https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260820/pdf/05shiryo_kabukaigi.pdf
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)資料」(2026年4月20日) https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260420/pdf/01shiryo_kabukaigi.pdf
- 会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4章「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」 https://report.jbaudit.go.jp/org/r05/2023-r05-0654-0.htm
- 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html
- 国税庁「財産評価基本通達」総則6項