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自社株評価 ― 実務目線で見る 3 方式の使い分けと落とし穴

事業承継やM&Aのご相談で、必ず最初に出てくるのが「うちの株、いくらですか」という問いです。上場株式なら証券会社の画面を見れば済みますが、取引相場のない株式(いわゆる自社株)にはその画面がありません。そこで国税庁は、財産評価基本通達によって評価のものさしをあらかじめ定めています。

ところがこのものさしは、一本ではなく三本あります。しかも、どれを使うかは会社が選ぶのではなく、株主構成と会社規模によって半ば自動的に決まってしまう。ここに、実務上の使い分けの妙味と、いくつもの落とし穴が生まれます。

本稿では、類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式の3方式について、実務で押さえるべき勘所を整理します。あわせて、2026年に大きく動いている評価ルールそのものの見直し議論にも触れます。


目次

1.評価は「二段階の分岐」で決まる

自社株評価は、健康診断の受付に似ています。まず問診票(=誰が株式を取得するのか)で大きくコースが分かれ、次に検査項目(=会社の規模)が決まる。この順番を逆にすると、必ず迷子になります。

第一の分岐:株主判定

株式を取得した株主が、その会社の経営支配力を持つ「同族株主等」かどうかで、原則的評価方式か、特例的評価方式(配当還元方式)かが分かれます(取引相場のない株式は、株式を取得した株主が経営支配力を持つ同族株主等か、それ以外の株主かの区分により、それぞれ原則的評価方式または特例的な評価方式である配当還元方式により評価します)。 国税庁タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」より)

第二の分岐:会社規模

原則的評価方式に進んだ場合、総資産価額、従業員数および取引金額により大会社・中会社・小会社のいずれかに区分し、それぞれの評価方法が適用されます。 国税庁タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」より)

この二段階を経てはじめて、「どの方式か」が確定します。


2.3方式の性格を一言でいうと

方式考え方たとえるなら
類似業種比準方式同業種の上場会社の平均株価をベースに、1株当たりの配当金額・利益金額・簿価純資産価額の3要素で比準する(類似業種の株価を基に、評価する会社の一株当たりの「配当金額」「利益金額」「純資産価額(簿価)」の3つで比準して評価する方法) 国税庁タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」より)「同じ町内の似た間取りの家がいくらで売れたか」から自宅の価格を推し量る(取引事例比較法
純資産価額方式総資産・負債を相続税評価額に洗い替え、そこから負債と評価差額に対する法人税額等相当額を控除する(会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法) 国税庁タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」より)「家を建材と土地に分解して積算する」(積算法
配当還元方式1年間の配当金額を10%で還元して元本価値を求める(その株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を、一定の利率(10パーセント)で還元して元本である株式の価額を評価する方法) 国税庁タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」より)「家賃収入だけを見て、利回りから価格を逆算する」(収益還元法

ここで一点、実務家がよく誤解する論点を補足します。純資産価額方式は「会社を清算したらいくら」という発想に見えますが、裁判例は必ずしもそう位置づけていません。株式は会社財産に対する持分としての性格を有することから純資産価額方式は株式評価の基本的な方式であり、支配株主の株式の最低限の価値を把握する方式としては適合性が高いと判示された裁判例があります(平成3年11月12日仙台地裁判決)。「解散価値」ではなく「支配株主が握る価値の下限」と捉えるほうが、実務感覚に近いといえます。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)


3.使い分けの全体像

原則的評価方式に進んだ場合の対応関係は次のとおりです。

  • 大会社……原則として類似業種比準方式。ただし純資産価額のほうが低ければそちらを選択できる
  • 中会社……大会社と小会社の評価方法を併用(Lの割合0.90/0.75/0.60で加重) 国税庁タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」より)
  • 小会社……原則として純資産価額方式。ただしLの割合0.50の併用方式も選択可
  • 特定の評価会社……原則として純資産価額方式(清算中の会社は清算分配見込額)

なぜ大会社は類似業種比準方式なのか。国税庁の資料はその理由を明快に説明しています。大会社は上場会社の株式の評価との均衡を図ることが合理的であることから原則として類似業種比準方式により、小会社は個人事業者の財産評価との均衡を図ることが合理的であることから原則として純資産価額方式により評価するという考え方です。つまり、大会社は「小さな上場会社」、小会社は「法人成りした個人事業」とみなすという割り切りです。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

そして「特定の評価会社」——株式等保有特定会社、土地保有特定会社、比準要素数1の会社、開業後3年未満の会社等——が純資産価額方式に飛ばされるのは、上場企業に比準する前提を欠いている会社の株式であることからという整理です。ここを理解しておくと、後述する落とし穴の意味が腑に落ちます。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)


4.実務で足をすくわれる7つの落とし穴

落とし穴① 【2026年4月改正】法人税額等相当額が37%→38%に

純資産価額方式では、含み益(評価差額)に対する法人税額等相当額を控除できます。この控除率が、長らく37%でした。

ところが令和7年度税制改正で防衛特別法人税が創設され、令和8年4月1日以後開始事業年度に適用されることに伴い、「法人税率等の合計割合」が「37%」から「38%」に改正されました。本改正は令和8年4月1日以後の相続、遺贈又は贈与に適用されます。 国税庁「財産評価基本通達の一部改正について」(令和8年3月25日付課評2-28)あらましより)

わずか1%ですが、含み益が10億円ある会社なら控除額は1,000万円増え、株価は下がります。防衛特別法人税には年500万円の基礎控除がありますが、評価方法の簡便性を考慮して、この基礎控除額は「法人税率等の合計割合」の算定には加味しないとされました。このため令和8年4月以後の非上場株式評価では、一律に改正後の38%を前提として評価が行われます。 国税庁「財産評価基本通達の一部改正について」(令和8年3月25日付課評2-28)あらましより)

実務上の要注意点は、過去に作成した試算書がすでに古くなっているということです。 令和8年3月以前に作った株価シミュレーションを、そのまま贈与実行の判断材料に使ってはいけません。

落とし穴② 「3年内取得の不動産」という時限装置

純資産価額の計算上、評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等・家屋等の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価すると定められています(評価通達185)。 財産評価基本通達 185より)

つまり、法人で不動産を買っても、3年間は簿価に近い金額のままで、相続税評価額との差額(含み益による評価減)は使えません。国税庁が有識者会議に提出した資料でも、この3年経過を待ってから株式を移転するスキームが具体例として挙げられています(HD会社が借入により貸付用不動産を購入し、4年6か月経過後に株式を贈与することで、取得価額と相続税評価額の差額分だけ純資産価額を圧縮した事例)。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

裏を返せば、急な相続が3年以内に起きると、この含み益は一切効かないということです。「不動産を買ったから株価対策は済んだ」という思い込みは危険です。

落とし穴③ 会社規模は動かせてしまう。だが動かしすぎると危ない

従業員数や総資産を動かせば、小会社が中会社に、中会社が大会社になります。純資産価額方式から類似業種比準方式に移れば、株価は大きく下がることがある。これは長年、事業承継対策の定番手法でした。

しかし国税庁は今、これを名指しで問題視しています。有識者会議の第4回資料には、恣意的な会社規模の変化による評価額圧縮スキームが存在すること、上場企業経営者や単なる資産持ち富裕層も非上場会社を活用した高度なスキームを利用していることが論点として掲げられ、子会社への従業員転籍によって会社規模を中会社から大会社に変更した事例(評価額100億円圧縮)などが具体的に示されています。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

事業実態を伴う組織再編と、評価額圧縮だけを狙った形式操作は、外形が似ていても税務上の耐久性がまったく違います。 ここは経営上の合理性の説明可能性が生命線です。

落とし穴④ 赤字が続くと、株価が「上がる」逆転現象

直感に反しますが、業績が悪化すると自社株評価が上がることがあります。

配当金額・利益金額・簿価純資産価額のうち直前期末の比準要素のいずれか2つがゼロで、かつ直前々期末の比準要素のいずれか2つ以上がゼロである会社は「比準要素数1の会社」として、原則として純資産価額方式で評価されます。類似業種比準方式が使えなくなり、含み益をたっぷり抱えた純資産価額が直撃するわけです。 国税庁タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」より)

この点は有識者会議でも委員から、赤字が続くと特定の評価会社になり評価額が上昇する問題があるとの指摘が出ています。「業績が悪いうちに贈与しよう」という発想が、真逆に働くケースがある——これは実務で最も痛い誤算のひとつです。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

落とし穴⑤ 配当還元方式は「株主判定」がすべて

配当還元方式は原則的評価方式の数分の一、時に数十分の一の価額になります。だからこそ判定は厳格です。中心的な同族株主とは、同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族の有する議決権割合が25%以上の株主をいい、中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、株式取得後の議決権割合が5%未満の場合に配当還元方式で評価します。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族——この範囲を1人読み違えるだけで、結論がひっくり返ります。

なお、無議決権株式を大量発行して議決権割合を調整し、孫を「中心的な同族株主以外の同族株主」として作出するスキームも、有識者会議の資料に事例として掲載されました(原則的評価方式の2.2%の額で評価され、評価額19億円・税額10億円が圧縮された事例)。種類株式を使った株主構成の設計は、今後もっとも風当たりが強くなる領域と見ておくべきです。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

落とし穴⑥ 「時価」は一つではない

これは経営者に最も伝わりにくい論点です。同じ株式に、少なくとも三つの価格が併存します。

  1. 相続税・贈与税の時価……財産評価基本通達による評価額
  2. 所得税・法人税の時価……所得税基本通達59-6、法人税基本通達9-1-14により、原則として評価通達に準じつつ一定の修正を加えた価額
  3. M&Aの実勢価格……DCF法、EV/EBITDA倍率法等による交渉価格

国税庁自身、相続税法、所得税法、法人税法のいずれにおいても「時価」は「客観的交換価値」と解されており概念としては共通するものの、課税の目的に応じ、所得税基本通達及び法人税基本通達において、課税上弊害がない限り、評価通達に準じて評価する旨定められていると整理しています。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

さらに大阪高裁は、通達による評価額が、中立公平な立場の専門家の意見によって把握できる客観的な評価額と一致することを前提としたものではないと明言しています(令和元年10月10日)。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

通達評価額とM&A価格が乖離するのは、バグではなく仕様です。 相続対策で1億円と評価された会社が、M&Aで5億円で売れることは珍しくありません。この乖離を前提に、承継の出口(親族内承継か第三者承継か)から逆算して設計する必要があります。

落とし穴⑦ 総則6項という最後の関門

通達どおりに計算しても、著しく不適当と認められる場合には評価通達6項により否認されうる——これが総則6項です。

注目すべきは、国税庁自身が今、この運用に限界を感じている点です。第4回資料には、評価通達6項の適用ではなく評価通達改正による納税者の予測可能性の確保の必要性、令和4年最高裁判決の調査官解説(乖離は、本来、評価通達の見直し等によって解消)という論点が明記されています。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

つまり、「6項で個別に叩く」から「通達を改正して封じる」へ、当局の重心が移りつつある。これが次章の話につながります。


5.2026年、ものさしそのものが揺れている

国税庁は2026年4月20日、取引相場のない株式の評価方法の見直しを検討するため、日本税理士会連合会や大学教授等の外部有識者を集めた「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の初会合を開催しました。令和6年11月の会計検査院の指摘を踏まえ、評価方式間の評価額のかい離や評価額圧縮スキーム等の諸問題に対応するためのものです。座長は慶應義塾大学大学院法務研究科の佐藤英明教授が務め、委員13名で構成されています。 税務通信 等 業界紙報道国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第1回配付資料より)

会議は4月20日・5月11日・6月4日・7月3日と、およそ月1回のペースで開かれてきました。そして第4回で、国税庁は委員に対して次の6項目について意見を求めています(①企業価値評価の学術研究やM&Aにおける評価方法等も参考として抜本的な見直しも視野に検討すること、②評価方式の一本化について検討すること、③会社法訴訟やM&A実務でも用いられなくなってきたことも踏まえ今後の類似業種比準方式の在り方をどう考えるか、④純資産価額方式を基本的な評価方式として維持するのではなく特定の評価会社の株式の評価方式として存置することをどう考えるか、⑤配当還元方式について還元率や計算方法だけでなく対象株主の範囲や従業員持株会との関係も整理すること、⑥少なくとも資産管理会社については純資産価額方式で評価すること)。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

「抜本的な見直し」「評価方式の一本化」という言葉が当局から出てきた意味は、決して小さくありません。委員からも原則的評価方式はインカムアプローチに一本化すべきという意見と、類似業種比準方式は簡便性等の点から優れており事業承継の役割を担ってきた歴史があることから見直しには慎重であるべきという意見の双方が出ており、議論は割れています。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

スケジュールについては、今後の議論の状況次第では今秋頃までに見直し案をまとめ、令和9年度税制改正大綱に盛り込み、早ければ令和10年1月から新たな評価方法となる見通しと報じられています。 税務通信 等 業界紙報道より)

ただし、現時点で確定した変更は何もありません。 財産評価基本通達の改正案も、意見公募(パブリックコメント)も、適用開始時期も公表されておらず、会議は議論の途中です。 国税庁 財産評価基本通達関連ページより)

では、いま何をすべきか

私どもが顧問先にお伝えしているのは、次の三点です。

(1)現行ルールでの株価を、いま把握しておく 議論の方向性は「評価額が上がる」側に寄っています。少なくとも現行水準を数字で押さえておかなければ、改正後の比較ができません。前述のとおり38%改正も入っていますので、試算の更新は必要です。

(2)実行するなら、事業実態を伴う設計に絞る 形式操作型のスキームは、今回の見直しで確実に射程に入ります。一方、株主構成の整理、後継者への計画的な移転、事業承継税制の活用といった王道の手法は、制度趣旨に沿うものであり相対的に安全です。有識者会議でも評価方法の見直しと事業承継税制の恒久化・拡充を同時・一体を前提条件とすべき、円滑な事業承継に資するという観点も踏まえた評価にすべきという意見が出ており、事業承継そのものへの配慮は失われない見込みです。 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」配付資料・議事要旨より)

(3)駆け込みはしない。ただし、判断を先送りもしない 「改正前に急いで贈与」は、贈与そのものに合理性がなければ本末転倒です。他方、「決まってから考える」では、令和10年1月適用となった場合に準備期間が足りません。方向性の決定は今、実行は情報を見ながら——これが現実的な構えだと考えます。


おわりに

自社株評価は、突き詰めれば「同じ会社を、どの角度から見るか」という問題です。上場会社に見立てるのか(類似業種比準方式)、資産の集合体と見るのか(純資産価額方式)、配当を生む金融商品と見るのか(配当還元方式)。角度が変われば見える大きさが変わる。それが数倍の評価差となって現れます。

そして2026年、その「角度の選び方」自体が、40年ぶりともいえる規模で見直されようとしています。

株式会社NEX Consulting/NEX税理士法人では、公認会計士・税理士が、相続税評価とM&A実務の両面から自社株の価値を検証し、承継の出口設計まで一貫してご支援しています。株価試算、株主構成の整理、事業承継税制の適用可否判定など、まずは現状把握からお気軽にご相談ください


参考・出典

  • 国税庁タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
  • 財産評価基本通達 178~189-7、185、186-2、188、188-2
  • 国税庁「財産評価基本通達の一部改正について」(令和8年3月25日付課評2-28ほか)およびそのあらまし
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第1回(2026年4月20日)〜第4回(2026年7月3日)配付資料・議事要旨
  • 会計検査院 令和5年度決算検査報告
  • 平成3年11月12日 仙台地裁判決、平成17年1月19日 東京高裁判決、令和元年10月10日 大阪高裁判決

本コラムは2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の事案に対する税務判断を示すものではありません。実際の適用にあたっては必ず個別にご相談ください。有識者会議の議論は継続中であり、今後の公表内容により取扱いが変わる可能性があります。

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