調剤薬局における事業承継 ―親族承継・非同族承継・M&A、3つの選択肢と進め方― | 大阪・名古屋・東京の事業承継専門家|株式会社NEX Consulting(ネックスコンサルティング)

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調剤薬局における事業承継 ―親族承継・非同族承継・M&A、3つの選択肢と進め方―

目次

はじめに ―

全国の薬局数は約6.2万施設(令和3年度衛生行政報告例で61,791施設)と、コンビニエンスストアの店舗数を上回る水準にあります。一方で、オーナー薬剤師の高齢化は着実に進み、帝国データバンクの2025年調査では、日本企業全体の後継者不在率は50.1%。改善傾向にあるとはいえ、いまだ2社に1社は後継者が決まっていません。

調剤薬局の事業承継が他業種と比べて難しいのは、「経営の承継」と「薬剤師という国家資格」「保険薬局としての許認可」の3つを同時に引き継がなければならない点にあります。例えるなら、普通の会社の承継が「家のカギを渡す」ことだとすれば、薬局の承継は「家のカギ」に加えて「運転免許」と「行政の営業許可証」も一緒に引き継ぐようなもの。カギだけ渡しても、車は動かないのです。

さらに、2年に一度の調剤報酬改定による収益環境の変化、薬剤師の採用難、大手チェーンによる再編加速(2025年5月にはアインホールディングスがさくら薬局グループを運営するクラフト社の全株式取得を発表)など、業界環境は「待てば良くなる」状況にはありません。承継の選択肢が最も多く、最も高い条件で交渉できるのは、業績と体力があるうちです。

本コラムでは、調剤薬局の事業承継の3つの類型――親族承継非同族承継(役員・従業員への承継)M&A(第三者への譲渡)――について、スケジュールと重要ポイントを詳しく解説します。


事業承継 3つの選択肢の全体像

項目親族承継非同族承継(役員・従業員)M&A(第三者譲渡)
準備期間の目安5〜10年3〜5年6か月〜1年半
後継者子・親族勤務薬剤師・幹部社員同業チェーン・ファンド等
対価贈与・相続が中心株式買取(MBO)株式譲渡・事業譲渡
主な課題後継者の資格・適性、相続税買取資金、個人保証の引継ぎ相手探し、従業員・処方元への配慮
活用できる制度事業承継税制(特例措置)経営承継円滑化法の金融支援等
創業者利益小さい限定的最大化しやすい

1. 親族承継 ―王道だが、最も時間がかかる

スケジュールの目安(5〜10年)

時期取り組むこと
10〜7年前後継者の意思確認。薬剤師資格の取得支援(6年制薬学部+国家試験)。他薬局・製薬企業等での外部修行
7〜5年前自社薬局への入社。現場(調剤・服薬指導・在宅)の習得、管理薬剤師としての経験
5〜3年前経営への参画(数値管理、採用、処方元・卸との関係構築)。株価対策・株式移転計画の策定、特例承継計画の提出
3〜1年前段階的な株式贈与または一括贈与(事業承継税制の活用)。役員就任、対外的な顔合わせ
承継時代表交代、開設者変更等の行政手続、金融機関の個人保証見直し
承継後先代は会長等として一定期間伴走し、段階的に退く

重要ポイント

① 後継者は必ずしも薬剤師でなくてよい――ただし管理薬剤師は必須。 薬局の開設者(経営者)に薬剤師資格は不要ですが、各店舗には管理薬剤師を置く義務があります。子息・子女が薬剤師でない場合は、信頼できる管理薬剤師の確保・定着が承継計画の生命線になります。逆に後継者が薬剤師であれば、現場と経営の両輪を担える強みがあります。

② 事業承継税制(特例措置)の期限を意識する。 非上場株式の贈与税・相続税の納税を100%猶予できる特例措置は、贈与・相続の実行期限が2027年12月31日と定められています(前提となる特例承継計画の提出期限は令和8年度税制改正により2027年9月30日まで延長)。計画提出だけでは足りず、期限までに贈与等を実行する必要がある点にご注意ください。自社株の評価額が高い薬局ほど、この制度を使えるかどうかで納税負担が大きく変わります。

③ 遺留分・相続対策はセットで。 後継者に株式を集中させると、他の相続人の遺留分を侵害するおそれがあります。経営承継円滑化法の遺留分特例(除外合意・固定合意)や生命保険の活用、遺言の整備を早めに行いましょう。

④ 「経営」の承継を軽視しない。 調剤技術は現場で学べますが、処方元医療機関との信頼関係、金融機関・医薬品卸との関係、労務管理は一朝一夕には引き継げません。先代の「顔」で成り立っている関係こそ、時間をかけた並走期間が必要です。


2. 非同族承継 ―勤務薬剤師・幹部への承継

親族に後継者がいない場合の有力な選択肢が、長年勤めた薬剤師や幹部社員への承継です。帝国データバンクの調査でも、事業承継の「脱ファミリー化」が進み、内部昇格による承継が同族承継を上回る勢いにあります。

スケジュールの目安(3〜5年)

時期取り組むこと
5〜3年前候補者の選定と意思確認(家族の同意も含む)。経営幹部としての登用、権限移譲の開始
3〜2年前株式評価と買取スキームの設計(MBO、持株会社設立、種類株式の活用等)。金融機関との資金調達協議
2〜1年前役員就任、取引先・処方元への紹介。株式譲渡契約の締結準備
承継時株式譲渡の実行、代表交代、個人保証の解除・切替え交渉
承継後先代は顧問等で一定期間支援

重要ポイント

① 最大のハードルは「買取資金」。 優良な薬局ほど株価が高く、勤務薬剤師個人が自己資金で買い取るのは困難です。実務では、後継者が設立した持株会社が金融機関借入で株式を買い取るMBOスキーム、日本政策金融公庫の融資や経営承継円滑化法に基づく金融支援、段階的な譲渡などを組み合わせて設計します。「退職金を活用して株価を引き下げてから譲渡する」といった株価対策との合わせ技も有効です。

② 個人保証の引継ぎ問題。 先代経営者の借入金への個人保証を後継者がそのまま引き継ぐことは、承継をためらわせる最大の心理的障壁です。「経営者保証に関するガイドライン」に基づき、金融機関と保証解除・不要化の交渉を早期に始めることが重要です。

③ 「番頭さん」と「経営者」は別物。 現場で優秀な管理薬剤師が、資金繰り・投資判断・労務の責任を負う経営者として適性があるかは別問題です。承継前に経営会議への参画、店舗のPL責任などを通じて計画的に育成・見極めを行いましょう。

④ 万一の撤回リスクに備える。 候補者の翻意や家庭の事情による辞退は珍しくありません。候補者は複数視野に入れ、M&Aという代替手段も並行して検討しておくと、交渉上も精神的にも余裕が生まれます。


3. M&A ―第三者への譲渡で従業員と地域医療を守る

親族にも社内にも後継者がいない場合でも、廃業を選ぶ必要はありません。調剤薬局はM&A市場で恒常的に買い手需要が強い業種であり、大手・中堅チェーンから地域の同業、投資ファンドまで買い手層が厚いのが特徴です。廃業すれば従業員の雇用も患者さんの受け皿も失われますが、M&Aならそれらを守ったうえで、創業者利益を現金で受け取ることができます。

スケジュールの目安(6か月〜1年半)

時期取り組むこと
検討開始専門家への相談、株式価値の簡易評価(株価算定)、譲渡条件の整理(雇用維持・屋号継続等の希望)
1〜3か月ノンネームシート・企業概要書の作成、買い手候補の探索・打診
3〜6か月トップ面談、意向表明、基本合意書の締結
6〜9か月デューデリジェンス(財務・税務・法務・薬事)対応
9〜12か月最終契約(株式譲渡契約等)の締結、クロージング(決済)
譲渡後従業員・処方元への開示、行政手続、引継ぎ期間(数か月〜1年程度の顧問就任も)

重要ポイント

① 薬局の評価は「時価純資産+営業利益の数年分」が実務の出発点。 最終的な価格は、処方箋枚数・集中率、処方元医療機関の医師の年齢と承継見込み、薬剤師の定着状況、店舗の立地・賃借条件などで大きく変動します。特に「処方元の医師があと何年続けられるか」は、薬局の将来収益を左右する最重要ファクターとして必ず精査されます。

② 情報管理を徹底する。 交渉中の情報が漏れると、薬剤師の離職や処方元の不安を招き、それ自体が薬局の価値を毀損します。従業員への開示は最終契約後が原則です。信頼できるアドバイザーと秘密保持契約を結び、限られたメンバーで進めましょう。

③ 許認可の引継ぎはスキームで大きく変わる。 株式譲渡であれば法人格が変わらないため、薬局開設許可や保険薬局指定はそのまま維持されます。一方、事業譲渡の場合は買い手側で薬局開設許可の新規取得と保険薬局指定の申請が必要となり、無保険期間を生じさせないためには、地方厚生局への事前相談による指定日の調整(遡及指定の取扱い)を含めた綿密な段取りが不可欠です。なお、令和3年8月施行の改正薬機法により、相続・合併・会社分割の場合には薬局開設許可等の地位を承継できる制度が整備されています。

④ 薬剤師の継続勤務が取引の前提条件になる。 買い手にとって薬剤師の確保は最大の関心事です。キーパーソンとなる管理薬剤師の残留が最終契約の条件とされることも多く、日頃からの労務環境整備と信頼関係が、そのまま譲渡条件に跳ね返ります。

⑤ 手取り額から逆算する。 株式譲渡の場合、個人株主の譲渡益には約20%の申告分離課税が適用されます。事業譲渡や退職金の組み合わせ方によって手取り額は変わるため、税務を踏まえたスキーム設計を最初に行うことが「高く売る」以上に重要です。


どの類型でも共通する「承継前の磨き上げ」

どの選択肢を選ぶ場合でも、承継の成否と条件を決めるのは「渡す前の準備」です。実務上、特に効果が大きいのは次の4点です。

① 決算書と実態の整理。 オーナー個人と会社の貸し借り(役員貸付金・借入金)、事業に使っていない資産(保険積立金、遊休不動産)、勤務実態のない親族への給与などは、承継・M&Aいずれの場面でも必ず論点になります。数年かけて整理しておくだけで、株価算定もデューデリジェンスも格段にスムーズになります。

② 「オーナーがいなくても回る」体制づくり。 発注、シフト、処方元対応がすべて経営者の頭の中にある薬局は、引き継ぐ側から見ると「設計図のない建物」です。業務の標準化・マニュアル化と権限移譲は、後継者のためだけでなく、M&Aの評価額にも直結します。

③ 薬剤師・スタッフの定着。 承継の直前に管理薬剤師が退職すれば、親族承継でも非同族承継でもM&Aでも計画は根本から揺らぎます。処遇・労務環境の整備は、最も確実な「承継対策」です。

④ 収益構造の把握と改善。 技術料の内訳(地域支援体制加算、かかりつけ薬剤師指導料、在宅関連の算定状況)、集中率、後発品調剤体制を定量的に把握し、改善余地を数字で示せるようにしておくこと。2026年度調剤報酬改定のような制度変更への対応力そのものが、薬局の価値として評価されます。

よくある失敗例

最後に、私どもが実際に相談を受ける中でよく見かける失敗パターンを挙げておきます。第一に、「子どもが薬学部に行ったから大丈夫」と承継の話し合いを先送りし、卒業後に本人から「継ぐつもりはない」と告げられて慌てるケース。意思確認は早すぎることはありません。第二に、番頭格の薬剤師に口頭で「いずれ君に」と伝えたまま株価対策も資金計画もせず、いざ承継の段になって買取資金が用意できず頓挫するケース。第三に、体調を崩してから慌ててM&Aに動き、業績悪化と時間切れで足元を見られた条件で譲渡するケース。いずれも共通するのは、「準備の時間」さえあれば防げた失敗だということです。


まとめ ―3つの共通点は「早く始めた者が選択肢を持つ」

親族承継なら10年、非同族承継なら5年、M&Aでも1年。どの道を選ぶにせよ、事業承継は「決めてから」ではなく「決めるために」動き出すものです。業績が良く、薬剤師が定着し、ご自身が元気なうちにこそ、すべての選択肢がテーブルに乗ります。

また、事業承継税制の特例措置は2027年12月末の実行期限が迫っており、親族承継を視野に入れる方は特例承継計画の提出を急ぐ必要があります。

株式会社NEX Consulting・NEX税理士法人では、公認会計士・税理士が、株価算定から承継スキームの設計、事業承継税制の適用支援、M&Aの相手探しからクロージングまでを一貫してサポートしています。「まだ決めていない」段階のご相談こそ歓迎いたします。まずはお気軽にお問い合わせください。


本コラムは2026年7月時点の法令・情報に基づいています。個別の案件については必ず専門家にご相談ください。

(参考資料)

  • 厚生労働省「衛生行政報告例」(薬局数の推移)
  • 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」
  • 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
  • 大阪府「医薬品医療機器等法(令和3年8月1日施行分)の改正について」(許可等の地位の承継)
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