「契約書はあるのに、なぜ“書類不足”になるのか」 | 大阪・名古屋・東京の事業承継専門家|株式会社NEX Consulting(ネックスコンサルティング)

Column

税制解説

「契約書はあるのに、なぜ“書類不足”になるのか」

目次

―― 令和8年4月スタート「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例」を、実務目線で解説します

株式会社NEX Consulting/NEX税理士法人


はじめに ― “いつも通り”が、ある日から通用しなくなる

「親会社から子会社へ、毎月『経営指導料』を払っている」 「グループ会社に、システムの利用料やロイヤルティを請求している」 「共通部門の費用を、各社に配賦して請求している」

こうしたグループ内取引は、多くの企業で“当たり前”に行われています。契約書もある、請求書も毎月切っている。だから税務上も問題ない――そう考えておられる経営者の方は少なくありません。

ところが、令和8年度税制改正で新設された 「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例」 は、この“当たり前”に静かに一石を投じる制度です。しかも適用は 令和8年(2026年)4月1日以後に行う取引から と、猶予期間が置かれないまま、すでに始まっています。

本コラムでは、制度の勘所と、いま実務で何を準備すべきかを整理します。


1. この制度をひと言でいうと ―「途中式を残しておきなさい」

新しい制度の趣旨は、実はとてもシンプルです。

金額(合計)だけでなく、「何に対して・どういう計算で」支払ったのかが、書類から読み取れる状態にしておきなさい。

スーパーのレシートを思い浮かべてください。合計金額だけが印字され、品目欄が真っ白だったら、後から「何を買ったのか」が分かりません。本制度が求めているのは、まさにこの**“品目欄”**です。

学校のテストにたとえれば、「答え(支払金額)」だけでなく「途中式(算定根拠)」を残しておくイメージ。ここで大切なのは、この制度は “答えが正解かどうか(価格が妥当かどうか)”を採点する制度ではないという点です。あくまで “途中式が残っているか” を見る制度です。この区別は、後ほど詳しくご説明します。


2. 背景 ―「移転価格税制が、国内に下りてきた」

これまで、グループ内取引の対価を見張る“門番”は、海外との取引(移転価格税制)の入口にだけ立っていました。海外子会社との取引価格を通じて所得が国外へ流出するのを防ぐ、という役割です。

しかし、グループ会社間で共通業務を一社に集約し、その費用を各社へ配賦する取引(いわゆるシェアードコスト取引=研究開発・広告宣伝・システムの維持管理などの集約)では、支払額を恣意的に調整しやすいという課題が、国内取引でもかねて指摘されてきました。書類だけでは経費の妥当性を確認できず、実態を把握できない事例があった、というのが当局の問題意識です。

そこで今回の改正では、移転価格税制に準じた考え方を、国内のグループ会社間取引にも配置した――同じ役割の門番が、国内の通路にも立った、とイメージすると分かりやすいでしょう。

ここがポイント① 移転価格税制が「国外関連者」を対象とするのに対し、本特例の「関連者」は 国内・国外を問いません国内のグループ会社間取引でも対象になり得ます。

ここがポイント② 移転価格税制の文書化義務が主に大企業を対象としていたのに対し、本特例は 対象法人を大企業に限定していません。中小企業も対象になると考えられます。「うちは海外取引がないから関係ない」とは言えない制度です。


3. 「誰との」「どんな取引」が対象になるのか

(1) 関連者 ― 移転価格税制と同じ基準で判定

「関連者」は、移転価格税制における関連者と同様の基準で判定されます。具体的には、おおむね次の関係にある法人です。

  • 親子関係:一方が他方の発行済株式等の50%以上を直接・間接に保有
  • 兄弟関係:同一の者が複数法人の発行済株式等の50%以上を直接・間接に保有
  • 実質支配関係:役員の兼務、取引依存、資金調達依存などにより実質的に支配していると認められる関係
  • 上記が連鎖して生じる関係

(2) 特定取引 ― 対象は「費用の基因となる取引」に限定

対象は、販売費・一般管理費その他の費用の基因となる取引のうち、次の①②です。

 取引の類型具体例
関連者から内国法人への工業所有権等の譲渡・貸付け(使用させる行為を含む)特許・技術ノウハウ・特別の生産方式、著作権、プログラムの著作物 など
関連者が内国法人に対して行う一定の役務提供経営の管理・指導、情報提供、経営資源を活用した研究開発・広告宣伝、専用資産の使用・維持管理、技術指導・マーケティング/会計・税務・法務支援 など

「経営指導料」「業務委託料」「システム利用料」「ロイヤルティ」「費用配賦(負担金)」――この辺りの勘定科目・摘要が出てくる取引は、まず対象候補と考えてよいでしょう。


4.【本コラムの核心】書類の“程度”は、どこまで必要なのか

ここからが、今回もっとも実務的に重要なテーマです。「では、どこまで詳しく書けばよいのか?」という、いわば**“程度”の問題**です。

(1) まずは「既存の書類で足りているか」を点検する

本制度は、ゼロから新しい書類を必ず作れ、という制度ではありません。

すでに保存が義務付けられている取引関連書類(契約書・請求書・計算メモ等)に、対価の額を算定するために必要な事項――すなわち ①取引した資産・役務の提供の明細、②支払う対価の額の計算の明細等――がすでに記載・記録されていれば、それで足ります。

不足している場合に限って、その足りない事項を明らかにする補完書類(=特定事項記載書類。親会社から取得する、または子会社側で作成する。電磁的記録を含む)を準備すればよい、という構造です。

イメージ:技術指導料の場合 契約書に「技術指導料 = 売上高の○%」とだけ書かれているとします。

  • 計算方法が書かれているケース → 他の必要事項も揃っていれば、追加の書類は不要
  • 計算方法の記載がないケース(金額だけ) → 「なぜ○%なのか」を示す計算メモ等を別途取得・作成して保存する必要があります。

(2) 各記載事項に求められる“程度”の目安

求められるのは「完璧な鑑定書」ではなく、「第三者が見ても取引実態と対価の算定が分かる」水準です。目安は次のとおりです。

① 工業所有権等の譲渡・貸付け

記載事項求められる程度(イメージ)
工業所有権等の明細権利の種類など、その内容を特定できる程度
内国法人において果たす機能使用態様などを示す程度
対価の額の明細何の対価として支払う金額か等を把握できる程度
対価の額の設定の方法算定根拠(計算式・計算手順等)を確認できる程度

② 役務提供(技術指導・マーケティング支援・会計/税務/法務支援など)

  • 役務提供の明細及び内容
  • 対価の額の明細
  • 対価の額の計算の方法

(3) 「価格が妥当か」までは、求められていない

ここが、現場でもっとも誤解されやすいポイントです。

「第三者と比べてその価格が高くないか・適正かまで証明しなければならないのか」と身構える方が多いのですが、現時点の整理では、そこまでは求められていません。

必要なのは、あくまで 「対価の額を算定するために必要な事項」――つまり “どうやってその金額になったか”が分かる状態にすることです。冒頭の比喩でいえば、“答えが正解か”ではなく“途中式があるか”。豪華なレポートである必要はなく、契約書・請求書・業務報告・計算表を組み合わせて、全体として必要事項が読み取れればよい、という考え方です。


5. 守らないとどうなるか ―「青色申告の取消し」という重さ

この制度で最も注意すべきは、罰則の“重さ”です。

補完書類の保存が法令の定めに従って行われていないことは、青色申告の承認の取消事由等に追加されます。一見すると「書類の不備」という軽い話に見えますが、青色申告の取消しは、企業にとって次のような大きな影響を及ぼし得ます。

  • 欠損金の繰越控除が使えなくなる
  • 少額減価償却資産の特例(30万円未満の一括損金算入)が使えなくなる
  • 特別償却・各種税額控除(中小企業経営強化税制 等)が使えなくなる
  • 貸倒引当金の繰入れが認められなくなる

実際に取消しとなるかは個別判断ですが、「保存資料の整備不足=重大な管理不備」と評価されるリスクがある、と認識しておくべきです。


6. 実務対応 ― いま着手すべき5ステップ

適用はすでに始まっています(令和8年4月1日以後の取引)。実務上は、事業年度終了後、確定申告期限までに必要資料を整えるという運用が一つの目安になります(例:3月決算法人で令和8年4月1日以後開始する事業年度の対象取引は、令和9年3月期の申告期限までに整備)。

Stepやること
① 洗い出し「指導料」「管理料」「使用料」「業務委託」「配賦・負担金」等の勘定科目・摘要を会計データから抽出し、相手先が関連者かどうかを照合する
② 該当判定抽出した取引が**特定取引(①工業所有権等/②役務提供)**に当たるかを判定する
③ 既存書類の点検契約書・請求書等に「①明細」「②対価の計算の明細」が記載されているかを確認する
④ 不足分の補完不足している場合、計算メモ等の補完書類を取得・作成する体制を整える(“都度・期中で残る形”が望ましい)
⑤ 保存体制の整備親会社からメールやPDFで受領した資料は、電子帳簿保存法に沿った検索性・保存体制を確認する

実務上の落とし穴 「詳細は親会社が持っているから、子会社では出せない」――この状態こそ、制度が想定する課題そのものです。国内子会社側でも説明できるよう、取得すべき資料・作成すべき資料をあらかじめ決めておくことが重要です。


7. おわりに ― “守り”の書類整備を、“攻め”のグループ経営へ

本制度は、税務の専門論点であると同時に、「グループ内取引の根拠を、いつでも説明できる状態にしておく」というグループ経営の基本管理そのものでもあります。これは、税務調査対応にとどまらず、事業承継・組織再編・M&A・ファンドによる資本参加など、グループ構造が外部の目に触れる場面で必ず効いてきます。買い手や投資家から見て「取引の根拠が整然と説明できる会社」は、それだけで評価される時代です。

NEX Consulting/NEX税理士法人では、公認会計士・税理士の視点から、

  • 関連者・特定取引の洗い出しと該当判定
  • 既存契約書・請求書の点検と、補完書類のひな形整備
  • 電子帳簿保存法に対応した保存フローの設計
  • 事業承継・M&A・組織再編を見据えたグループ間取引の整理・適正化

までを一気通貫でご支援しています。「うちのグループ取引は大丈夫だろうか」と少しでも気になられた方は、お早めにご相談ください。


 ※本コラムは、令和8年度税制改正大綱・改正法および公表資料等に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引・事案に対する税務上の助言ではありません。制度の詳細・適用関係は今後公表される政省令・通達等により変更される可能性があります。個別のご判断にあたっては、必ず専門家にご相談ください。


出典・参考

  • 令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日)/令和8年度税制改正法(令和8年3月31日成立)「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例」
  • 財務省 説明資料〔税に対する公平感を大きく損なうような行為への対応〕(令和7年6月11日)
  • 税務通信 第3903号(令和8年6月8日)「関連者間書類保存特例 ― 特定事項等の記載内容の程度とは」
  • 国税庁・各種解説資料、および大手会計事務所等の公表解説(PwC税理士法人、税理士法人山田&パートナーズ ほか)
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