目次
はじめに
2026年4月14日・15日、日本経済新聞が2本立てで報じた。
「非上場株の相続、節税抑止 国税庁が評価ルール見直し 来年度税制改正で調整」
国税庁が4月中に有識者検討会を設置し、2027年度税制改正で非上場株式の評価ルールを見直す方針を固めた。評価方式の違いで最大4倍の格差が生じてきた現行制度に、60年超ぶりの本格的なメスが入る。
タワマン節税が最高裁で否認され、翌年に通達改正が入ったあのパターンを覚えているだろうか。今回も構造はまったく同じだ。
1. 現行制度の何が問題なのか
非上場株式には公開市場がない。そのため国税庁は「財産評価基本通達」(1964年制定)という評価ルールを定め、会社の規模に応じて3つの評価方式を使い分けてきた。
評価方式 適用対象 特徴 ①類似業種比準方式 大会社 上場類似企業の株価に比準 ②純資産価額方式 小会社 会社の資産・負債から算出 ③併用方式 中会社 ①と②の組み合わせ
問題の核心:格差が拡大し続けてきた
会計検査院(令和5年度決算検査報告、2024年11月公表)が明らかにした数字は衝撃的だ。
類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値のわずか27.2%
大会社の申告評価額は純資産の中央値の0.32倍(=評価が68%も圧縮されている)
評価方式の違いによる最大格差は4倍
この乖離の原因は単純だ。①の類似業種比準方式は1966年〜2017年の累次改正で評価額が下がる方向に改正され続けてきた。一方、②の純資産価額方式はほぼ見直しがなかった。その結果、格差は制定当初より拡大の一途をたどっている。
「非上場株の評価額が実際の価値と比べて10分の1になる例もある。3分の1や半分ぐらいはざらだ」
節税スキームへの悪用が横行
この格差を利用したスキームが多様化してきた。
会社規模区分の操作:従業員数を増員して「大会社」扱いにし、類似業種比準方式を適用させる
適格株式交換の活用:兄弟会社を親子化し、個人財産から株式を圧縮する
配当の意図的抑制:比準要素(配当)をゼロにして評価額を下げる
専門家の試算では「数百億円の資産圧縮効果が生じるケースもあり得る」とされるほどの規模感だ。
会計検査院は調査対象590社のうち79.4%が無配当であることも指摘した。実質的に2要素(利益・純資産)しか機能していない計算式が、企業の実態を反映していないと結論づけている。
2. 今回の日経報道の要点
報道の核心をタイムラインで整理する。
2026年4月(今月中) 有識者を集めた検討会を設置。評価ルールの「抜本的な見直し」を目指す。
2026年内 類似業種比準方式・配当還元方式など複数論点を包括的に議論・完了。
2027年度税制改正 財産評価基本通達を改正。1964年制定以来初の抜本改正へ。施行は最短2027年1月1日以後の相続・贈与から適用の見込み。
実務上の重要ポイント
3. 過去の改正事例から読み解く「当局の手法」
今回の改正を読み解く上で、過去の通達改正との比較は欠かせない。当局の動き方には一定のパターンがある。
改正事例 きっかけ 改正内容 今回との共通点 マンション通達改正(2023年) 令和4年最高裁判決・タワマン節税否認 区分所有不動産の評価を時価ベースに近づける 乖離スキームの横行→当局が遮断 斟酌率・比準要素見直し(2017年) 比準価額の低すぎる水準への批判 比準要素の見直し等(小幅改正) 比準要素の恣意的操作への対応 貸付用不動産評価改正(2027年施行) 相続税評価と時価の乖離+R8税制改正大綱 5年以内取得は取得価額ベース(80%)で評価 取得時期で評価差を遮断 今回(非上場株)2027年度改正予定 会計検査院指摘+日経報道(2026年4月) 有識者検討会で議論中 過去3事例すべてのパターンが重複
共通するのは「時価と評価額の乖離を利用した節税が横行する→当局が乖離を通達改正で遮断する」という構造だ。
タワーマンションがそうだったように、今回も「評価が低すぎる部分を実態に近づける」方向で改正が入ることはほぼ確実と見ている。
4. 今後の改正シナリオ(4つの予測)
有識者検討会の具体的な結論は未定だが、会計検査院の指摘内容と過去改正のパターンから、以下4シナリオが有力だ。
① 類似業種比準価額の引き上げ【確度:高】
比準要素(配当・利益・純資産)のウェイト見直し
配当ゼロ企業の場合の補正計算式の導入
大会社の斟酌率(現行0.7)を0.8〜1.0へ引き上げ
会計検査院レポートで最も詳細に論じられており、改正の確度は最も高い。大会社オーナーへの影響が最大になる。
② 配当還元方式の還元率引き下げ(現行10%)【確度:中〜高】
「近年の金利水準と比べ高い率となっているおそれがある」と検査院が指摘
還元率を5〜7%に引き下げ→少数株主の評価額が上昇
同族外株主への贈与スキームの実効性が低下
③ 会社規模区分の見直し【確度:中】
従業員数・総資産の判定基準を見直し
節税目的の規模区分操作を困難にする要件追加
「実質支配」基準の通達化(総則6項の明文化)
④ 純資産価額の法人税等控除率縮小【確度:中】
現行38%(令和8年4月1日以後)→段階的縮小の可能性
含み益の評価への反映が強化される
不動産多保有会社ほど大幅な増税リスク
注意: シナリオ①〜④が複合的に実施される可能性も十分ある。特にシナリオ①は確度が高く、大会社オーナーは評価額の大幅上昇を前提に対策を検討すべき段階だ。
5. 経営者が今すぐ取るべき行動
リスクとして認識すべきこと
現行の自社株評価圧縮スキームの効果が大幅縮小する
節税目的の組織再編・持株会社化スキームが否認リスク増大
大会社オーナーほど増税幅が大きい(現行0.32倍→上昇)
M&A時の自社株価算定根拠が変わり、株価交渉に影響が出る
少数株主への贈与による承継スキームの実効性が低下
今すぐ取るべき対応
自社株の現行評価額を今すぐ試算・把握する
改正前の贈与・事業承継スキームの前倒し検討
特例承継計画の提出期限(2027年3月末)を確認
M&Aによる株式の第三者売却も選択肢として比較検討
複数シナリオで税額シミュレーションを実施
事業承継税制(特例制度)との関係
今回の改正は逆説的に、事業承継税制の相対的価値を高める。非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予の特例制度は、贈与・相続税そのものを猶予・免除するため、評価額が上昇しても税額が発生しない。
特例承継計画の提出期限は2027年3月末(延長後)。評価改正と特例制度の両方を組み合わせた戦略が、今後の事業承継の「正攻法」になる可能性が高い。
6. まとめ
改正の必然性 会計検査院の指摘→国税庁の検討会設置→2027年度改正という流れは不可逆。「改正されないリスク」はほぼゼロ。早期に動くほど対応の選択肢が広い。
主戦場は大会社オーナー 最も影響が大きいのは大会社オーナー。現行0.32倍という極端に低い申告評価額が是正され、相続税・贈与税の実質増税を意味する。
構造はタワマン改正と同じ 過去の通達改正事例(タワマン・貸付不動産)と同じ「当局が乖離を遮断する」パターン。結論(評価引き上げ)は変わらない。
2026年が勝負の年 施行は最短2027年1月以降。通達発遣日が経過措置の起点となる可能性があり、2026年内に実行した対策が有効になるケースもある。時間は残り少ない。
本記事は公開情報をもとにした情報提供を目的としており、個別の税務アドバイスではありません。具体的な対応については必ず専門家にご相談ください。