親族12名に「平均9,700円」、叔父は「1万3,600円」と反論――個人株主23名を7カ月で3名に集約した少数株主整理の実例と5つの落とし穴 | 大阪・名古屋・東京の事業承継専門家|株式会社NEX Consulting(ネックスコンサルティング)

Case

目的
親族12名に「平均9,700円」、叔父は「1万3,600円」と反論――個人株主23名を7カ月で3名に集約した少数株主整理の実例と5つの落とし穴
業種
製造会社
案件概要
親族12名に「平均9,700円」、叔父は「1万3,600円」と反論
製造会社合理化効率化少数株主

「親族なら話せば分かる」「清算価値を示せば高く売れる」。少数株主整理には、売買双方にこうした思い込みがあります。本稿は、2025年に個人株主23名を3名へ集約した匿名の実例です。結論から言えば、簿価の純資産を持ち出す「清算価値」論は、退職金や清算費用、税金を差し引くと、提示価格を下回ることが少なくありません。叔父の反論文書、先代会長の手紙まで、実務の論点を振り返ります。

どんな会社で、何を集約しなければならなかったのか

対象会社は、創業から半世紀を超える地方の設備工事会社です。創業者である先代会長(現・相談役)は2025年の定時株主総会で退任し、長男が社長を務めています。創業者のきょうだいの家系が二つ、社長の姉妹とその家族、元役員や縁故者が株式を持ち、個人株主は23名。社長本人の持株比率は約29%にすぎません。利益を積み上げてきた会社の株価は年々上がり、放置すれば集約のコストは増え続け、相続のたびに株主も増えます。2025年5月に提案を行い、12月までに20名から株式を取得しました(特定を避けるため、数値は丸めています)。

項目集約前(2025年8月)集約後(2025年12月)
個人株主の数23名3名(社長・両親)
社長+社長が全株を持つ持株会社約29%約54%
叔父の家系・姉妹など親族12名約29%0%
非同族の個人株主8名約5%0%
従業員持株会約20%約28%

なぜ同じ株式に「3つの株価」が並んだのか

非上場株式には、「誰が・誰から買うか」で税務上の時価が変わるという特徴があります。少数株主が取得する株式は配当還元方式(配当額をもとにした評価)で評価され(財産評価基本通達188)、本件では約870円。同族株主には類似業種比準価額(上場同業種の株価に比準する方法)の約4,200円。個人が法人に売る場面では、所得税基本通達59-6により純資産を織り込んだ「法人税法上の時価」約13,400円が基準になります。

そこで非同族の8名からは社長個人が約4,200円で取得し、親族12名の株式は、30%を従業員持株会が約1,050円(持株会の従来価格)で、70%を新設の持株会社が約13,400円で取得する設計にしました。平均は約9,700円です。

持株会社が高く買うのは、法人が時価より低く買えば差額が受贈益(タダでもらった利益)として課税され(法人税法22条2項)、個人が法人に時価の2分の1未満で売れば時価で売ったものとみなされる(所得税法59条1項2号、同法施行令169条)からです。会社自身が自己株式として買えば売主にみなし配当が生じ、総合課税で手取りが目減りしますが、持株会社への売却なら分離課税で済みます。「3つの株価」は、売主の税負担を抑えつつ課税リスクを避けた結果です。

叔父は何を主張し、数字はどこが違っていたのか

11月上旬に親族へ案内を送ると、叔父からLINEで独自の株価計算が届きました。資本金を株数で割った約580円に「のれん代」として5倍を掛けた約2,900円。相続税評価上の純資産を株数で割った約2万1,000円の5割。これらを足して約1万3,600円、という計算です。

続いて親族全員に配る予定の文書が届きます。主張は「譲渡承認書にはトリックが仕込まれている」。持株会に1,050円で売る分は、持株会社の価格との差額、叔父の場合で約1,400万円が自分の手元から「消えた」という主張です。妥協案は「全株を1株1万円以上で持株会社へ」。

私たちは計算式に一行ずつ注記しました。資本金は純資産の一部であり、別途足せば二重計上です。換金できる資産を総資産に加え直す計算も同じです。そのうえで叔父の言う「清算」を本当に行った場合の試算を作りました。

指標(1株あたり)金額意味
配当還元価額約870円少数株主にとっての税務上の時価
相続税評価(原則的評価)約4,200円同族株主にとっての税務上の時価
清算価値(当社試算・税引前)約7,900円退職金・解雇予告手当・清算費用を控除
親族への提示(平均)約9,700円持株会30%+持株会社70%
法人税法上の時価約13,400円個人が法人へ売る場合の基準
叔父の独自計算約13,600円資本金×5倍+純資産の5割(二重計上を含む)

簿価純資産約8.2億円から、先代会長の退職金約1.5億円、社長の退職金、従業員の退職金と解雇予告手当、清算費用を差し引くと、清算後の純資産は約4.7億円、1株約7,900円です。残余財産の分配にはさらにみなし配当課税がかかります。清算価値は提示額の「上」ではなく「下」でした。そもそも解散には特別決議(議決権の3分の2以上、会社法309条2項11号・471条3号)が必要で、数%の株主が求めても実現しません。なお、試算は簿価を時価とみなした簡易版です。

少数株主整理の実務で、どこに落とし穴があるのか

  1. 買い手ごとに書面を分けなかったこと:二つの買い手と二つの価格を1枚の譲渡承認書に並べ、平均値を示したことが「トリック」と受け取られる原因になりました。書面も通知も、譲渡人と譲受人の組み合わせごとに作るべきです。
  2. 先行買取の価格は必ず親族に伝わること:非同族株主から約4,200円で先に買った事実は、親族にも伝わります。後の買取が「なぜ高いのか」を説明できる設計を先に用意すべきです。
  3. 「純資産」「清算価値」への反論を数字で準備すること:簿価純資産を株数で割った額は、売主に最も分かりやすい「高値」です。控除項目を入れた清算試算がなければ、議論は感情論になります。
  4. 配当方針の書き方が交渉の空気を左右すること:「持株会社では当面配当を想定していない」との一文は、事実である一方、圧力とも受け取られ得ます。淡々と書くべきです。
  5. 後工程の税務まで一体で設計すること:持株会の株式を後に会社が自己株式として買い戻すと、同族株主へのみなし贈与(相続税法基本通達9-2)が問題になり得ます。本件では無議決権化と同額の第三者割当増資を組み合わせ、2026年7月の再編まで一体で設計しました。

誰が・いくらで買えば税務上問題がなく、親族にも説明がつくのかは、決算書と株主名簿があれば概算できます。30分の無料相談で、集約の順序と価格の組み立てを個別に整理します。

叔父・社長・先代会長は、それぞれ何を言ったのか

時期発信者内容
2025年9月社長(案内文)非同族株主へ、第三者の算定に基づき約4,200円で買取を案内
2025年11月上旬社長(案内文)親族株主へ、1株9,600円程度で買取を案内。退職慰労金で株価が下がる可能性に言及
2025年11月中旬叔父(LINE)資本金×5倍の「のれん代」と純資産の5割を足した独自計算で約1万3,600円と主張
2025年11月下旬叔父(親族宛て文書・社長宛てメール)二重価格は「トリック」と指摘。妥協案は1万円以上、だめなら全株を保有し続ける
2025年11月下旬先代会長(手書きの手紙)叔父に宛て、第三者が算定した価格であり、応じなければ株主として持ち続けることになる旨を伝えた
2025年12月中旬親族株主全員当初提示の条件で譲渡に応じ、株主名簿を更新

叔父の文書は言葉こそ激しいものの、結論は「1万円なら売る」でした。文中には「甥の会社の足を引っ張るのは心苦しい」ともあります。争点の芯は価格より、事前説明なく持株会社が作られたという「手順への不満」だったと私たちは読みました。そこへ、怒った先代会長が手書きの手紙を送りました。関係悪化を覚悟しましたが、価格交渉は再燃せず、12月中旬までに全員が当初条件で応じました。手紙が決め手だったとは断定できません。ただ、価格の根拠を第三者の算定に一本化し、上乗せしない姿勢がぶれなかったことが収束の条件でした。

視点別に評価するとどうなるか

視点評価理由
後継社長○持株会社と合わせて議決権を実質過半数に集約。買取資金は持株会社の借入で賄い、個人の資金負担を抑えた
親族株主(売主)○原則的評価の2倍超となる平均約9,700円で、清算試算も上回る。分離課税で手取りも確保
叔父△金額面では有利だが、事前説明なく再編が進んだという手続き上の不満は残った
先行売主(非同族)△適正価格だが、親族向け価格と比べ不公平感が生じ得る
会社・税務△持株会社の借入返済と、後工程のみなし贈与リスクの管理が続く

本件は価格の一律性を捨て、税務上の適正性とスピードを取りました。犠牲は説明の分かりやすさと、先行売主との公平感です。全員が満点の解はありません。どの不満を、どの数字で説明するかを決めてから動くべきです。

「一物一価にすべきだった」という意見にどう答えるか

実務家の一部には、親族からは一律価格で買い、持株会への配分は会社内部で後から調整すべきだとの考えがあります。同じ株式に複数の価格が付くこと自体が不信を招くという点は正論です。裁判所の売買価格決定(会社法144条)なら高くなるとの見方もあります。それでも私たちは、本件の設計が正しかったと考えます。

第1に、一律1万円で持株会社が全株を買えば、持株会社の買取資金は約590万円増えるうえ、法人税法上の時価との差額約5,800万円について受贈益課税のリスクが残ります。

第2に、売主が拠り所にした清算価値を実際に計算すると約7,900円で、提示平均を下回ります。裁判所の価格決定も、DCF法(将来の収益から逆算する方法)による評価から非流動性ディスカウントとして30%を減価した最高裁決定(令和5年5月24日)があるように、売主に有利とは限りません。

第3に、時間です。株価は上がり続け、相続のたびに株主は増えます。退職金支給前の株価での提示は売主に有利な時点であり、半年で集約を終えられる窓でもありました。

まとめ

  • 非上場株式は「誰が・誰から買うか」で税務上の時価が変わります。複数の価格は制度上の帰結であり、説明できる設計にすべきです。
  • 「清算価値」は簿価純資産ではありません。退職金・清算費用・税金を差し引くと、提示額を下回ることが多いです。
  • 価格差は親族間で必ず共有されます。買い手ごとに書面を分け、買取の順序と根拠を事前に固めるべきです。
  • 個人株主が10名を超える会社は、次の相続の前に、株価と株主の属性の整理から始めるべきです。

本稿は、少数株主からの株式集約に関する2026年11月時点の一般的な解説であり、事例の数値・属性は一部丸めています。取扱いや試算は今後の改正・解釈により変わる可能性があります。個別の案件における判断・結果を保証するものではありません。実際の案件では、個別の事情を踏まえ、専門家への確認を行ってください。

関連資料:分散株式を放置した場合のリスクと、買取・種類株式・持株会社化など株式集約の手法を整理した実務資料です。

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