役員貸付金4.7億円を報酬で返せば税金5.8億円・16.6年――持株会社への株式譲渡で「処理できない貸付金」を解消した匿名事例 | 大阪・名古屋・東京の事業承継専門家|株式会社NEX Consulting(ネックスコンサルティング)

Case

目的
役員貸付金4.7億円を報酬で返せば税金5.8億円・16.6年――持株会社への株式譲渡で「処理できない貸付金」を解消した匿名事例
業種
製造会社
案件概要
役員貸付金4.7億円を報酬で返せば税金5.8億円
製造会社事業承継合理化効率化資産税

「社長への貸付金は、役員報酬を上げて少しずつ返せばよい」。多くのオーナー企業でそう考えられていますが、残高が億単位になると、この前提は成り立ちません。本稿で取り上げる関西の設備工事会社(70代の社長が全株を保有)では、役員貸付金と未収利息が約4.7億円に達し、報酬で返すと税金だけで約5.8億円、完済まで約16.6年かかる試算でした。2026年10月時点の制度を前提に、処理方法の比較、負担の試算、落とし穴、制度の動き、立場別の評価から、貸付金の「出口」を検討します。

役員貸付金は、なぜ「処理できない」のか?

役員貸付金とは、会社が役員に貸しているお金です。事例の会社では、長年の資金移動の積み重ねで残高が約4.34億円に達していました。利息は年1%で毎期計上されているものの入金はなく、未収利息(未収入金)が約0.37億円まで積み上がっていました。社長は、年8,760万円の役員報酬の手取りから返済する前提で考えていました。

処理の方法は理屈の上では複数あります。しかし、残高が大きいと、どの方法にも重い負担が伴います。

処理方法税務上の扱い本事例での問題
報酬で返済報酬に所得税・住民税(最高約55%)完済まで約16.6年、税金約5.8億円
返済の免除社長は給与課税、会社は原則損金不算入約4.7億円に二重の課税
退職金と相殺退職所得として課税退任が前提、社長は続投の意向
放置利息が毎年発生、相続で債務を承継3人の娘が1人約1.58億円を承継
持株会社へ株式譲渡譲渡益に20.315%の分離課税年内実行なら一括返済が可能

返せば税、免除しても税、放置すれば娘たちに債務が残る。これが「処理できない貸付金」の正体です。社長ご本人が最も恐れていたのは、自分に万一のことがあったとき、会社を継がせたい娘たちが億単位の借金を背負う事態でした。

なぜ持株会社への株式譲渡で解消できるのか?

私たちが提案したのは、3人の娘が出資する持株会社(HD、資本金100万円)が金融機関から約6億円を借り入れ、社長から全株式を法人税法上の時価(簿価純資産(帳簿上の純資産)ベースで約5.97億円)で買い取る方法です。社長は譲渡代金で役員貸付金と未収利息の計約4.75億円を一括返済し、約1.15億円を納税資金として手元に残します。

会社は回収した資金を原資にHDへ配当し、HDはその配当で借入を返済します。100%子会社からの配当は「完全子法人株式等」として全額益金不算入(法人税の課税対象外)となります。ただし、株式取得の直後に行う配当は、計算期間に完全支配関係のない期間が含まれ、全額益金不算入になりません。そこで、先に少額の配当で計算期間を区切り、その後に本格配当を行う設計としました。本格配当は、会社の分配可能額(概算約5.7億円)の範囲に収めています。

この方法の「功」は3つです。第一に、最高約55%の給与課税を、20.315%の分離課税に置き換えられます。第二に、貸付金と未収利息の残高がゼロになり、会社と社長の資金関係が整理されます。第三に、株式の所有は娘世代に移りますが、社長は代表取締役として経営を続けられます。所有と経営を分けることで、承継の時期を経営判断から切り離せます。

誰の負担がどれだけ変わるのか?

項目A 報酬で返済B 持株会社スキーム
返済期間約16.6年一括(年内)
返済に充てる額面報酬約10.5億円不要
個人の税負担約5.78億円約1.15億円
借入利息―約0.04億円
負担合計約5.78億円約1.19億円

Aは、現在の報酬と返済が不要な場合の報酬(月200万円と仮置き)の差額6,360万円を「返済のための報酬」とみなし、その手取り約2,870万円で毎年返済する前提です。差額報酬にかかる税金の実効負担率は約54.9%で、社会保険料は標準報酬月額の上限に達しているため増えません。結果として、個人の負担はBより約4.6億円多くなります。

相続が先に起きた場合はさらに深刻です。貸付金債務は3人の娘が均等に約1.58億円ずつ承継し、同じ実効負担率で返済するなら、1人あたり約3.5億円の額面報酬が必要になります。なお、これらは本事例の前提に基づく試算であり、他社への影響を示すものではありません。土地の時価反映や決算の確定によって数値は変わります。

実務上の落とし穴はどこにあるのか?

  1. 認定利息の利率が上がっている:国税庁は、役員への貸付の利息を、借入が原資ならその利率、それ以外は貸付年に応じた利率で評価します。令和4〜7年中の貸付は0.9%でしたが、令和8年中の貸付は1.3%です。これを下回る差額は給与として課税されます。利息を計上していても入金がないまま未収が積み上がると、貸付の実態そのものが問われやすくなります。
  2. 免除や相殺を安易に処理しない:返済の免除は役員給与となり、社長の所得税と会社の法人税が同時に増えます。退職金との相殺は、退任の実態がなければ成り立ちません。
  3. 債務は相続人に自動的に分かれる:金銭債務は相続開始と同時に法定相続分で承継されます(民法899条)。遺産分割で株式を長女に集めても、債務は3人に分かれたままです。相続放棄をすれば、株式も手放すことになります。
  4. 金融機関は「一体性」を見ている:経営者保証に関するガイドラインは、法人と経営者の資金のやりとりを社会通念上適切な範囲にとどめるよう求めています。役員向け貸付金や未収入金が過大だと、承継時の保証解除や新規融資で不利に働きます。
  5. 譲渡の価額と時期を誤らない:法人への譲渡は、時価の2分の1未満だと時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条)。また、年をまたぐと改正後のミニマムタックスの対象になります。株券発行会社なら、株券不発行への定款変更と公告も年内に済ませる必要があります。

貸付金を報酬で返す場合と株式譲渡で返す場合の差は、決算書と申告書があれば概算できます。30分の無料相談で、御社の貸付金の「出口」を個別に整理します。

国税庁・与党・中小企業庁は何と言っているのか?

時期主体内容
2014年2月中小企業団体・金融機関団体経営者保証ガイドライン適用開始。法人と経営者の資産・経理の分離を求める
2025年12月与党(税制改正大綱)極めて高い水準の所得への負担見直しを令和9年1月から実施
2026年3月改正法成立特別控除額3.3億円→1.65億円、税率22.5%→30%(令和9年分以後)
2026年4月国税庁令和8年中の役員等への貸付の利率を1.3%と案内
2026年9月国税庁有識者会議/中小企業庁等非上場株式評価を残余利益方式に一本化する案と試算を提示/事業承継への影響の検証を求める意見

これらの動きは、方向が一貫しています。法人と個人の資金の区分を求め、高額所得の負担を引き上げ、株価評価を見直す。いずれも、先送りするほど負担が増える側に動いています。本事例では、令和8年中の譲渡ならミニマムタックスの追加負担は0円ですが、令和9年に譲渡すると約2,500万円の追加負担が生じる試算でした。一方、株価評価の見直しは、中小企業庁等が慎重な検討を求めており、「中止」ではなく「修正」を含みとした議論と読むべきです。適用時期や評価水準は未確定です。

視点別に評価するとどうなるか?

視点評価理由
社長個人○貸付金ゼロ、負担約4.6億円減、経営は続投
後継者(娘3人)○債務承継を回避。HDの借入返済は負う
会社△財務は透明化。配当で手元資金が減り債務保証も負う
金融機関△一体性は解消。新規融資のリスクは増える
課税の公平△給与課税を分離課税に置き換える点に批判の余地

このスキームが取りにいくのは「時間」と「確実性」です。16.6年かかる返済を数か月で終わらせ、相続の時期に左右されない状態をつくります。その代わりに、会社の手元資金とHDの返済負担、そして相続税評価より高い価額で売ることによる譲渡税を受け入れています。何を取り、何を差し出すかを家族が理解したうえで選ぶことが前提です。

「自社株を売ってまで返すべきか」という反対意見にどう答えるか?

反対意見にも理があります。会社側では役員報酬が損金になるため、法人税等の軽減(約3.54億円)を差し引けば、グループ全体での差は約1.05億円に縮みます。相続税評価(約3.3億円)より高い約6億円で売り、余計な譲渡税を払うという指摘もあります。実務家の一部には、時間をかけて報酬で返すか、退任時に退職金で相殺すれば足りるという考え方もあります。

それでも私たちは、本事例では株式譲渡による一括返済を取るべきだと考えます。第1に、グループ全体で見てもなお約1億円がAの不利側に残り、しかもAは社長の年齢を考えると現実的でない16.6年の返済期間を前提としています。途中で相続が起きれば、負担はそのまま娘たちに移ります。第2に、法人への譲渡価額を相続税評価まで下げると、時価の2分の1未満の譲渡や受贈益の問題を招き、税務リスクを残します。退職金との相殺は退任が前提で、経営を続けたいという社長の意向と両立しません。第3に、ミニマムタックスの改正、認定利息の利率の上昇、株価評価の見直しと、待つほど条件が悪くなる方向に制度が動いています。

まとめ

  • 億単位の役員貸付金は、報酬で返しても、免除しても、放置しても重い負担が残ります。
  • 本事例では、報酬返済の税負担約5.78億円に対し、持株会社への株式譲渡では約1.19億円の試算でした。
  • 相続が先に起きれば、貸付金債務は相続人に法定相続分で分かれ、後継者の負担になります。
  • まず貸付金と未収利息の残高、利率、返済実績を確認し、制度が動く前に出口を設計すべきです。

本稿は、役員貸付金の解消と持株会社への株式譲渡に関する2026年10月時点の一般的な解説であり、事例の数値は特定の前提に基づく試算です。制度の内容・試算・適用時期は今後の議論により変わる可能性があります。個別の案件における判断・結果を保証するものではありません。実際の案件では、個別の事情を踏まえ、専門家への確認を行ってください。

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