MBO(非同族の役員による株式承継)
経緯
A社は、中四国地方の年商30億円の卸売業であり、社歴が長く、従業員も比較的多い会社である。
社風としては、穏やかな家族主義であり、従業員も給料はけっして高い方ではないが、残業なく伸び伸び働いている印象をうけた。
この会社にも隠れた問題があり、社長には事業を継承するご子息がおらず、非同族である取締役(兼営業本部長)に社長業を託す意向があり、取締役もそれに概ね同意しているが、なかなか前に進まない問題があった。
後ほど課題にあるが、株価の高騰と、連帯債務保証の2つが、会社の円滑な事業承継を阻んでいた。
なお、この事例では、社長がM&Aによる外部承継に踏み切らなかったが、その理由としては、家族的な社風の維持と、外部の会社に任せるよりも取締役本人に実績と才能があり、彼に任せた方が従業員を幸せにするという判断があった。
課題
社長保有株式の株価総額が3億円と高騰しており、また連帯債務保証が残っているため、長年経営を移す方法に苦慮してきた。
これは、地方で比較的堅調に利益を残してきた会社の特徴であるが、気づかない間に後継者個人が買える金額を遥かに超える株価になっているケースがおおく、その場合、後継者にはそもそもそれを購入できるだけの貯蓄がなく、また個人での銀行借入も難しい状況であった。
また、連帯債務保証についても、過去の根保証の債務が継続的に残っており、メインバンクである信金も過去数度解除を依頼をしたが、債務保証を外すことに難色を示している状況であった。
コンサルティング内容
①従業員持株会の組成
後継者の株式移動の負担を下げるために、従業員持株会を組成し、社長保有の株式の30%程度(原則評価にて9千万円相当)を従業員持株会にて保有することにした。 この時に、従業員が拠出した金額は、原則評価9000万円の株式の取得に対して、わずか150万円であった。
これは、社長や後継者であれば会社支配権があるため「原則評価」という高い株価になるのと反面、従業員持株会では支配権がなく、いわゆる配当権しかないため、配当還元価額という「特例評価」が認められている。
②持株会社の組成
後継者は、個人で株式購入は困難であるため、持株会社を組成して、こちらにおいて借入を行い、株式を社長より購入することになった。
株式対価(2.1億円)が社長に入り、譲渡税(分離課税20.315%)後の金額が手元に残ることになったため、余生おける生活も豊かなものになった。
③連帯債務保証の解除
後継者に社長が変わるタイミングで、メインバンクである信用金庫には、円滑な事業承継に連帯債務があると支障しかないこと、また経営者ガイドラインでの説明をしっかりおこない、結果として連帯債務を解除して頂くことになった。
以上